「いくら節電しても、電気代が下がらない」── そんな声を、最近よく耳にします。
いったい何が起きているのか。エネルギー業界の最前線にいる6人の専門家が、ひとつのテーブルを囲み、本音で語り合いました。電力小売、メーカー、業界団体、自治体、販売会社、広報。立場の違う6人による座談会の内容を、3回連載でお届けします。
第1回のテーマは、「電気代高騰の正体」です。
● 座談会参加者
森 氏|株式会社UPDATER(みんな電力)電源調達担当
鈴木 氏|ハンファジャパン株式会社 マーケティング責任者
中西 氏|一般社団法人 太陽光発電協会(JPEA)
林 氏|さいたま市役所 ゼロカーボン推進戦略課ゼロカーボン戦略係長
髙島 氏|株式会社EX-World 代表
西原|アイチューザー株式会社 (みんなのおうちに太陽光事務局) シニアプロジェクトマネージャー/新規事業開発
エアコンの設定温度を変えても、待機電力を切っても、請求額はじりじり上がっていく。── 多くの方が感じているこの徒労感を、業界の人たちはどう見ているのか。まずは率直な声から聞きました。
── 最近、消費者の電気代に対する反応は変わってきていますか?
鈴木氏(ハンファジャパン)
「以前は節約で何とかなる、というところがありました。しかし今は電気代そのものが上がっているため、家計の努力だけではどうにもならない状況になっています。買う電気が高くなっているなら、「では、買う電気をご自身で作りませんか」というアプローチを、今はご提案しやすい環境になっていると感じます。」
── 販売の現場でも、同じような声が届いていますか?
髙島氏(EX-World)
「一般の方も敏感に察知されていて、太陽光・蓄電池を購入されるきっかけの8〜9割は、電気代高騰への不安です。」
── 実際の数字としては、どれくらい上がっているのでしょうか。
林氏(さいたま市)
「2010年と比べると、電気料金は家庭で約1.5倍、産業では約1.8倍にまで上昇しています。さいたま市役所でも、昔一部の公共施設で契約していた電力会社が撤退をして、大手電力会社の最終保障契約に切り替えざるを得ませんでした。」
── そもそも、なぜここまで電気代が上がっているのでしょうか。
森氏(UPDATER)
「電力市場のJEPX(日本卸電力取引所)は、需要と供給によって価格が決まります。そのため、需要不安や供給不安によって相場が大きく左右されます。「実際は足りているのに、不安だから買う」「実際は足りているのに、不安だから売る」
ここ数年は、こうした心理的な動きで市場が乱高下しやすくなったと特に感じます。」
── 今は少し落ち着いているようにも見えますが…?
森氏(UPDATER)
「足元では春から夏にかけて落ち着いており、大荒れはしていません。しかし、この状況が冬まで続けば、需要逼迫も重なって相場が再び荒れる可能性があり、予断を許さない状況だと思っています。」
「不安が価格を押し上げている」── 第1章で見えたのは、その直接的な理由でした。でも専門家たちが本当に問題視していたのは、もっと根深い「日本のエネルギー構造そのもの」だったのです。
── 一般家庭の人は、電気代の中身をあまり知らない印象があります。
中西氏(JPEA)
「電気代には、電気を作るコスト、送配電コスト、再エネ賦課金など、複数の要素があります。消費者の方々は「ひと月で1万円を超えたかどうか」という総額だけで判断しがちですが、本当は「1kWhが何円で、その内訳はどうなっているのか」というところまで考える必要があると思います。」
── もし正しく比較したら、何が見えてくるのでしょう?
中西氏(JPEA)
「電気代は今、高い単価で言えば1kWhあたり40円を超えるかもしれません。一方、太陽光発電が1kWhを作るときのコストは14〜14.5円です。我々の立場としては「なぜそんなに高い単価の電気を、わざわざ買っているんですか」と言いたくなります。スーパーで1円2円安い商品を吟味して買うのに、電気代だけは、なぜ高い方を選んでしまうのでしょうか。」
── 構造の話になると、もっと根が深そうですね。
髙島氏(EX-World)
「私自身は、これは構造的な問題が大きいと考えています。日本全体のエネルギーシステム、電力供給の仕組み── そのシステム全体が、世界情勢の変化による燃料調達難のような事態に対応できる構造になっていないのです。ここを改善しない限り、抜本的な解決には至りません。どうしても「止血」を続けるしかない状況が、今後さらに増えていくのではないかと思います。」
ここからは、本記事のハイライトです。毎月の電気代に必ず含まれている「再エネ賦課金」。その中身を、森氏が驚きの内訳とともに明かしてくれました。
── 「みんな電力」では、電気代の中身を細かく公開する取り組みをされていたそうですね。
森氏(UPDATER)
「以前、当社の個人向けサービスで「超明細」という明細を出していました。普通の明細では、電力の内訳は「基本料金・従量料金・再エネ賦課金」という3項目程度です。ところが、その中身までさらに分解してみると、基本料金の中には弊社(みんな電力)が取り組む分、総括税に払う分、それ以外の費用、消費税分などが含まれます。電気代という大きな枠の中に、再エネ賦課金や原子力復興費、また廃炉等円滑化負担金なども含まれています 。結果として、色分けが3色ではなく16色になるのです。」
イラスト引用:引用:UPDATER, Inc.「みんな電力」 プランの特徴ページ
── その「超明細」を見たお客様の反応はどうでしたか?
森氏(UPDATER)
「すべてを公開する超明細を出したところ、お客様からの反応は非常に大きなものでした。「再エネ」と銘打っているのに、なぜその中に「それ以外の費用」が入っているのか── と。」
──「こういう理由でそうなっています」と説明すると、納得まではしてくれない。けれど、払うしかないなら仕方ない。というのが市場心理でしょうか?
林氏(さいたま市)
「講演で「地球温暖化に危機感を感じている方?」と聞くと、全員が手を挙げます。でも「太陽光発電設備を設置している、若しくは再エネ電力に切り替えていますか?」と聞くと、ほとんど手が挙がりません。「高いから」「構造的に難しいから」と。みんな思っているけれど、動けない状態なんですよね。」
制度上、支払いを止めることはできない。理屈は理解できる。でも、感情としては腑に落ちない── 多くの消費者が抱える、まさにこのモヤモヤを森氏・林氏は代弁してくれました。
── では、消費者は何ができるでしょうか。
森氏(UPDATER)
「そこから「せめて、払う先くらいは自分で選びたい」という形で、弊社の「顔の見える電力」をお使いいただくお客様が出てきます。再エネ賦課金は制度として支払わなければなりませんし、系統を通る以上、関連費用も発生します。それでも、自分で選べる部分は自分で選ぼう── そう考える方は、確実に増えてきています。」
ここまでは「いま」の話でした。ここからは、これからの日本のエネルギーがどう変わるのか── 業界関係者にとっても、消費者にとっても見逃せない、歴史的な転換点があります。
── これから、エネルギーの世界はどう動いていきますか?
中西氏(JPEA|太陽光発電協会)
「2028年から化石燃料賦課金が導入されます。これがすぐに電気代に影響するかどうかは分かりませんが、化石由来の電源と非化石由来の電源── つまり再エネの競争力が、相対的に上がっていくはずです。」
── このエネルギー転換を、誰がリードしていくのでしょうか?
林氏(さいたま市)
「『ZEH住宅や、太陽光発電を設置したい』と思っていても動けない最大の理由は、金銭的問題が大きいと思います。市民の方が困っているけど、民間では支援しきれない領域を後押しするのが、行政の役割だと考えています。優れた商品は揃っているのですから、最後の一歩を踏み出してもらうための支援は、我々にしかできないと思っています。」
エネルギーの主役交代が現実味を帯びてくる中で、消費者の頭をよぎる疑問があります。
「太陽光を導入するなら、いつがベストなのか」── 設備費はいずれ下がる可能性がありますし、電気代も将来的には落ち着くかもしれません。それなら、今は様子を見た方が得なのではないか。そう考える方も少なくないはずです。
しかし、専門家たちの見立ては違いました。
── でも、「あと数年待てば設備も電気代も下がる」と思っている人も多そうです。
中西氏(JPEA|太陽光発電協会)
「仮に10年後、太陽光の設置費用が半分になったとしましょう。 今100万円のものが、50万円になるかもしれません。── ですが、 その10年間も電気代は払い続けるわけです。仮に年16万円なら、 10年で160万円。50万円安くなるのを待つために、160万円を電気代 として払う。これは合理的な選択でしょうか。 」
第1回では、電気代高騰の正体に迫りました。これは一過性の現象でも、誰かの陰謀でもありません。市場の不安、制度の構造、国のエネルギー政策が絡み合って起きている、構造的な現象です。
となれば、いくら節電を頑張っても、根本的な解決にはなりません。
次回・第2回では、「節約」「電力会社の乗り換え」といった従来型の防衛策が、なぜもう限界なのか── 消費者が陥りがちな「罠」について、専門家たちの言葉から掘り下げていきます。