第1回で電気代高騰の構造を、第2回で節約・乗り換えの限界を見てきました。
最終回となる今回は、専門家たちが口を揃えた「買う電気を減らす」を、どう実現するか。導入の不安をほどきながら、その先にある価値まで、参加者の言葉でたどります。
● 座談会参加者
森 氏|株式会社UPDATER(みんな電力)電源調達担当
鈴木 氏|ハンファジャパン株式会社 ES事業部 マーケティング責任者
中西 氏|一般社団法人 太陽光発電協会(JPEA)
林 氏|さいたま市役所 ゼロカーボン推進戦略課ゼロカーボン戦略係長
髙島 氏|株式会社EX-World 代表
西原|アイチューザー株式会社 (みんなのおうちに太陽光事務局) シニアプロジェクトマネージャー/新規事業開発
太陽光や蓄電池は高い。その先入観が、検討の入り口を閉ざしてしまうことがあります。
── 太陽光や蓄電池は「高い」という印象が、根強くあります。
林氏(さいたま市)
「講演で「地球温暖化は深刻だと思う方」と尋ねると、全員が手を挙げます。ところが「ご家庭に太陽光を設置していますか」「再エネ電力に切り替えていますか」と聞くと、ほとんど手が挙がりません。理由を尋ねると、「高いから」「構造的に難しいから」と返ってきます。」
── 実際のところ、導入の方法は増えているのでしょうか。
鈴木氏(ハンファジャパン)
「PPA、いわゆる0円設置や、共同購入など、導入の方法はいくつもあります。各社がさまざまな選択肢を用意していますので、購入の手段は確実に増えています。」
PPA(0円設置モデル)は、初期費用をかけずに設備を載せ、発電した電気を使った分だけ料金として払う仕組みです。地域でのスケールメリットを活かすことで価格を下げる共同購入のような方法も、選択肢の一つです。
「高いから」と切り捨てる前に、自分に合う導入方法があるかを見てみる価値はあります。
不安が大きいのは、むしろ導入したあとです。壊れたらどうするのか。その問いに、業界はどう向き合っているのか。
── 導入したあとの維持管理に、不安を感じる人は多いはずです。
林氏(さいたま市)
「公共施設に導入する際は、維持管理が難しいため、PPAやリースに切り替えました。これは個人の住宅でも同じだと思います。実際、故障していることにすら気づいていない方が、少なくないはずです。」
── 設備を販売する側は、そこにどう向き合うべきでしょうか。
髙島氏(EX-World)
「私たちのように太陽光や蓄電池を販売する会社が、保守やメンテナンスまで見据えて、最初からそのための仕組みごと導入する。これがとても大切だと考えています。」
── 業界では「VPP(仮想発電所)」のような新しい仕組みも語られています。これは消費者にとって意味があるものでしょうか。
髙島氏(EX-World)
「正直に言うと、一企業が「VPPに参加しませんか」と消費者に呼びかけても、ニーズは生まれにくいと思っています。そもそも、そこに問題意識を持っている方がほとんどいません。だから大切なのは、太陽光や蓄電池を販売する段階で、保守やメンテナンスができる仕組みを最初から組み込んでおくこと。
データが取れる状態を作っておけば、活用法は企業側が考えればいい。結果として消費者の電気代が下がっていれば、それでOKだと思っています。」
大切なのは、消費者に「VPPに参加しませんか」と呼びかけることではなく、太陽光・蓄電池を販売する段階から保守メンテナンスを組み込んでおくこと。データが取れる仕組みさえあれば、その活用は事業者側で考えればよく、結果として家計の電気代が下がっていれば、消費者にとっては十分なメリットになります。
太陽光や蓄電池の価値は、お金の話だけにとどまりません。
── 太陽光や蓄電池の価値を、どのように捉えていますか。
森氏(UPDATER)
「「脱炭素」という言葉だけで語られてしまうのが、もったいないと感じています。実際には、レジリエンス、つまり災害への備えや防災の側面もあります。」
── 次の世代に向けては、何ができるでしょうか。
鈴木氏(ハンファジャパン)
「子ども世代から太陽光に触れてもらうことも大切です。子どもたちが太陽光発電を当たり前のものとして知る機会を増やしていけば、これまでとは違う、よりよい未来につながるのではないでしょうか。」
蓄電池があれば、停電のときにも電気を使えます。太陽光は、家計の話を超えて、家族を守る備えにも、次の世代の学びにもつながっている。価値を一つの物差しだけで測る必要はない、ということです。
第2回では、電力会社の乗り換えだけでは大きな効果が出にくいことをお伝えしました。では、電気の切り替えそのものに意味はないのでしょうか。── 専門家たちの答えは「いいえ」。
むしろ、太陽光と組み合わせてこそ、切り替えは本当の意味を持つのです。
── 電気の切り替えと、太陽光導入。どちらを優先すべきでしょうか。
中西氏(JPEA)
「自家消費を増やせば、売っても10円程度のところを、自分のところで使えば40円分の価値になります。だったら、貯めて使った方がいいですよね。そのためには蓄電池も要りますし、EVでも、エコキュートでお湯にしてもらっても構いません。とにかく、できるだけ自分の土地で使う。同じ1kWhでも、外に出すのと自分で使うのでは、価値が倍以上違うんです。」
── つまり、まず「買う電気を減らす」のが先、ということですね。
鈴木氏(ハンファジャパン)
「そうですね。太陽光で作って、貯めて、自分で使う。それでもなお買う電気が必要であれば、その電気を「どこから買うか」を選ぶことに、初めて意味が出てきます。順番としては、まず作る側に回る。その上で、買う部分も選ぶ。この組み合わせが、いちばん効きます。」
── 集合住宅で太陽光を載せられない方は、どうすればよいでしょうか。
森氏(UPDATER)
「そういう方々のために、コーポレートPPAという仕組みがあります。たとえば遠隔地の発電所を、1kWずつ50人で所有する。1kW分の発電量はその方の電気として使えます。「あなたの電気代が、この発電所に直接払われている」という、顔の見える形です。集合住宅で太陽光を載せられなくても、自分で作る側に回る道はあるんです。」
中西氏(JPEA)
「同じ1kWhでも、外に出すのと自分で使うのでは、価値が倍以上違う。」
電気の切り替えは「無意味」ではありません。ただ、切り替えだけで大幅に下げるのは難しいのも事実です。
だからこそ、まず太陽光で「買う電気を減らす」。
そのうえで、残った分の電気を、自分が応援したい先から買う。── この二段構えが、これからの常識になっていきます。
最後に問われるのは、情報との向き合い方です。
── 世の中にあふれる情報と、どう向き合えばよいでしょうか。
髙島氏(EX-World)
「業界の外にいる人の言葉が、そのまま「常識」として広まってしまう。その力は、とても強いと感じています。だからこそ、「それは違う」と発信する人が、必要なのだと思います。」
── 読者は、まず何から始めればよいでしょうか。
鈴木氏(ハンファジャパン)
「まずは、ご自宅が太陽光に向いているかどうかを確かめてみてほしいです。先入観を一度脇に置いて、試しに一歩、踏み出してみていただきたいと思います。」
「太陽光は損をする」といった情報も、出どころを確かめないまま広まりがちです。大切なのは、誰かの言葉ではなく、自分の家の条件で確かめること。
まずはシミュレーションで、自宅が向いているかを知るところから。共同購入のような仕組みも、増えている選択肢の一つです。先入観を脇に置いて、試す一歩を。
全3回をお読みいただき、ありがとうございました。
この企画は、ある素朴な疑問から始まりました。「電気代がこれだけ上がっている中、消費者は何を信じて、何を選べばいいのか」── ニュースの断片ではなく、業界の最前線で動いている人たちの本音を、ひとつのテーブルに並べて聞いてみたい。そう考えました。
電力小売、メーカー、業界団体、自治体、販売会社。立場も役割も違う6人だから、意見も分かれるだろうと予想していました。しかし座談会が進むにつれて、それぞれの視点から語られながらも、最終的な結論は自然と一つにまとまっていくことが何度もありました。
「家計の努力だけでは、もう何ともならない」「対症療法を続けるしかない」「真っ先に言えるのは、自家消費」── 結局たどり着いたのは、ひとつの結論でした。
「買う電気を、減らす。その上で、買う電気を、選ぶ」。
私たち、みんなのおうちに太陽光 事務局が大切にしているのは、太陽光発電を売ることではありません。皆さまに、ご自身の暮らしと向き合うきっかけをお届けすること。── それが、私たちの役割だと考えています。
太陽光は、屋根の方角、家計の状況、暮らし方によって、向き不向きがあります。だからこそ、誰かの言葉を鵜呑みにせず、ご自身の条件で確かめてみてください。
いきなり大きな決断をする必要はありません。
検針票の使用量を見てみる。屋根の向きを調べてみる。── そんな身近なところから始めるだけで、ご自宅にとって本当に必要な選択肢が見えてきます。
みんなのおうちに太陽光 事務局 西原